2015年税制改正で、課税の仕方が見直されます。今までは試験研究費の総額に対して、課税軽減措置が採られていました。今後は試験研究費を以前より多く出費した場合に、その増分に対して課税の軽減が講じられ、従前の総額に対する優遇は2/3程度に縮小される見込です。これは、国際競争力に対応する20%台への法人税率下げを実施するための財源探しの政策です。
◆ 法人税法上の試験研究費の定義
法人税法では試験研究費の原価性の判断基準を性格別の試験研究に求めている(法基通5-1-4(2))。しかし法人税には現在、試験研究を定義したものはない。試験研究の意義は、試験研究の実態に応じて一般の例により判断することになる。ただ古い通達で次のように定義されていた時期がある(旧昭和28.12.16直法1-136通達参照)。この通達は今はないが、その取扱いは現在でも変っていないと考えて良いであろう。
① 基礎研究とは、自然現象に関する実験等によって法則を決定するための研究をいう。
② 応用研究とは、基礎研究の結果を具体的な物質、方法等に実際に応用して工業化の資料を作成するための研究をいう。
③ 工業化研究とは、基礎研究および応用研究を基礎として工業化または量産化をするための研究をいう。
法人税法では、「科学技術基本法」や「科学技術研究調査規則」等でいう「開発研究」を「工業化研究」と云う用語を使っている。各研究の意義は、法人税j法の方が限定的で範囲が狭いかもしれないが、基本的には「科学技術研究調査規則」の定義と大差はない。(注)昭和28.12.16直法1-136通達は、昭和44年の法人税基本通達の全文改正の際に廃止された。理由は法人税基本通達として新たに定めたこと(現行法基通5-1-4)による。尤も「試験研究」の定義は、税法として会計慣行に従うべきという意味で、現行法人税基本通達には定められていない。
◆法人税法上の用語
法人税関係法令において、試験研究ないし研究開発に関連する用語として、次のようなものが使われている。即ち試験研究費(措法42の4⑫一、措令27の4⑥)、研究開発(措令28の2①一)、研究所用(措法43の2①、措令28の2①一、措令27の9⑤五、⑦五、28の9⑨五)、自然科学研究所(措令27の9⑥、⑦五、28の9⑧⑨五)、開発研究(耐令2二、措規20の2の2③、20の5の2①)、研究開発費(法基通7-3-15の3(2))等である。これらは各々の制度の適用要件となっている。他のものは全ての法令について明確な定義がされているとは限らない。法令上、その意義が定められているのは、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における「試験研究費」だけである。
このほか、試験研究を別の角度からみた概念としての「開発研究」の意義を定めるものが存する。即ち開発研究用減価償却資産の耐用年数の特例制度、中小企業者等の機械等の特別償却または特別税額控除制度、及び情報基盤強化設備等を取得した場合等の特別償却または特別税額控除制度における開発研究の意義である。現在、試験研究費をめぐる法人の税務上、試験研究費ないし開発研究の意義が明確に規定されているのは、以上のものだけである。
◆試験研究費の意義(意味)
イ) 繰延資産
以前の法人税法には、繰延資産の一つに試験研究費があった時期がある。その試験研究費とは、新たな製品の製造または新たな技術の発明にかかる試験研究のために特別に支出する費用をいうとされていた(旧法令14①三)。これは旧商法(旧商規37一)における試験研究費の意義と同じであった。
ロ) 試験研究費の特別税額控除
試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度における試験研究費とは、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明にかかる試験研究のために要する費用で、次に掲げるものをいう(措法42の4⑫一、措令27の4⑥)。
① その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもってその試験研究の業務にもっぱら従事する者にかかるものに限る。)および経費
② 他の者に委託して試験研究を行う法人(人格のない社団等を含む。)のその試験研究のために委託を受けた者に対して支払う費用
③ 技術研究組合に対して納付する試験研究のための賦課金
◆開発研究の意義
試験研究費と開発研究費の相違をみるため、研究開発の意義を検討しましょう。研究開発費の額は、ソフトウエアの取得価額に算入しなくてよい。ただし、自社利用のソフトウエアは、その利用により将来の収益獲得または費用削減にならないことが明らかな研究開発費に限る(法基通7-3-15の3(2))。法人税上で「研究開発費」の言葉が使われているが、その定義はされておらず、裸で研究開発費というだけである。裏を返せば、税務上の研究開発費の概念や範囲は、基本的に企業会計と同様に取り扱うということを意味している。
イ) 開発研究用減価償却資産の耐用年数の特例
開発研究用減価償却資産の耐用年数の特例制度における開発研究とは、新たな製品の製造もしくは新たな技術の発明または現に企業化されている技術の著しい改善を目的として特別に行われる試験研究をいう(耐令2二)。前述したように「研究開発」という概念があり、「開発研究」と比べると、単に言責の順序が入れ替わっているにすぎないようにみえる。しかし両者はまったく違うものである。すなわち、開発研究は、性格別研究の態様のひとつとしての、あくまでも研究の一種であり、開発行為は含まない。これに対して、研究開発は、研究と開発という二つの局面を包含したものである。この点で、研究開発は開発研究をも含む概念であり、開発研究よりも範囲が広い。
口) 中小企業者等の機械等の特別償却または特別税額控除
中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却または特別税額控除制度においては、ソフトウエアが通用対象になっている。ただし、開発研究の用に供されるソフトウエアは、適用対象にならない(措法42の6、措令27の6①、措規20の2の2③)。
この場合の開発研究とは、新たな製品の製造もしくは新たな技術の発明または現に企業化されている技術の著しい改善を目的として特別に行われる試験研究をいう(措規20の2の2③)0これは、上述の開発研究用減価償却資産の耐用年数の特例における開発研究の定義とまったく同じである。ハ)情報基盤強化設備等の特別償却または特別税額控除
情報基盤強化設備等を取得した場合等の特別償却または特別税額控除制度においては、ソフトウエアがその通用対象となっているが、新たな製品の製造もしくは新たな技術の発明または現に企業化されている技術の著しい改善を目的として特別に行われる試験研究の用に供されるものは除かれている(措法42の11①、措規20の5の2①)。
これは開発研究用のソフトウエアは適用除外にするということで、その意義は、上記イの開発研究用減価償却資産の耐用年数の特例制度におけるそれと全く同じである。
◆試験研究費の課税上の区分
一口に試験研究費といっても、その内容や性質は一棟ではない。現実に企業が経理している試験研究費勘定をみても、その内容は種々、雑多でいろいろなものが記帳されている。試験研究費が複合費であるといわれるゆえんである。その試験研究費を最も広くとらえて、税務上の取扱いという観点からみれば、①期間費用となるもの、②棚卸資産(製造原価)となるもの、③固定資産となるものおよび④繰延資産となるものの四つに区分されよう。その区分に応じてそれぞれ税務処理をしなければならない。税務上は、試験研究費であるから、あるいは試験研究費勘定に経理したからといって、一義的に取扱いが定まるものではない。試験研究費であればすべて単純に損金になる、といった包括的な取扱いはないから、あくまでも個々の試験研究費の内容や性質に応じた税務処理をしなければならないのである。
法人税法上、棚卸資産、固定資産または繰延資産については、それぞれ定義が置かれ、相互に重複しないようになっている。棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品などで「棚卸をすべきもの」とされており(法法2二十、法令10)、固定資産や繰延資産は棚卸をすべきものではないから、これらと重複することはない。また、固定資産は「棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産」と定義され(法法2二十二、法令12)、棚卸資産や繰延資産を除いている。さらに、繰延資産の範囲からは「資産の取得に要した金額とされるべき費用」は除かれている(法法2二十四、法令14)。
税務上はまず、試験研究費がこれら資産のいずれに該当するかどうかを、各資産ごとに判定する。試験研究費が理論的に棚卸資産または固定資産の取得価額にも繰延資産にもなるときは、棚卸資産または固定資産の取得価額への算入が優先する。これは繰延資産の範囲から「資産の取得に要した金額とされるべき費用」は除外されているためである。判定の結果、いずれの資産にも該当しない試験研究費が期間費用になる。従って試験研究費が期間費用になる場合、その試験研究費は繰延資産にはならない。尤も固定資産となる試験研究用資産の償却費は製造原価になる場合があるように、試験研究費に関する課税上の4区分は原則として相互に関連を有しない。当該4区分について補綴をすれば①は、一般管理費として期間費用となる試験研究費である。これは他の一般管理費と全く同様に、発生ないし支出した事業年度において単純に損金となる。②は棚卸資産の取得価額を構成することになる試験研究費である。試験研究費でも原価性があるものは、他の費用と同じように製造原価に算入する。その結果、当期の売上高に対応するものだけが当期の損金となる。当期の売上高に対応しないものは、棚卸資産として翌期以降に繰り越される。これが期間費用となる試験研究費との決定的な違いである。③は固定資産となる試験研究費である。試験研究用の建物や設備、器具備品などは、企業がその取得費を試験研究費として経理しても、そのまま単純に損金とはならない。試験研究用でも、属性や機能が建物や設備、器具備品などである限り、固定資産として所定の償却方法により費用化される。④は繰延資産となる試験研究費である。繰延資産の範囲から試験研究費は除外されている(法令14)。その限りにおいて試験研究費が繰延資産となることはない。しかし試験研究費の範囲を広くとらえると試験研究費の中には税務上、繰延資産となるものがある。例えば同業者団体等で共同研究を行う場合の負担金や試験研究用資産の賃借に伴う権利金などは、繰延資産である。また試験研究のために他人のノーハウ利用権の頭金は繰延資産に該当する。このように試験研究費と繰延資産は全く無関係という訳ではない。